う、また負けた。
相手にしなければいい、とわかってはいるのだけれど。
ダイスをポイポイ投げられるのも、カードでサクサク切られるのも、地味に痛いんだ。
前はダイスでの勝負で負けてダイスになった。
あれは視界がグルグル回るから、気持ち悪くなってしまったけれど。
カードの場合はどうだろう。やっぱり縦回転機能、あるんだろうか?(何だかんだと"楽しんでいる"自分がいた)
「よぅ、ロクサス。派手に負けてるなぁ」
固まった視界で、声の方を向くってのは大変だと、今気づいた。
何せ空気抵抗が大きいから、回るのも一苦労だ。
「無視しようとしても、しつこいんだ…"ギャンブラー"。アイス代巻き上げようとしたけれど無理だった」
「そんな事だろうと思った」
お前は勝負する以前に、目で話しちゃっているんだよ――と。
ニヤニヤしながら言うのは、"ギャンブラー"の主であるルクソード。
"時を賭する者"、"力の名"が表す通り彼自身もギャンブラーで…俺とは腐れ縁だ。
この場所について、右も左もわからない時に"ギャンブラー"に遊ばれた俺は(その時はダイスに変化させられた)すぐに主であるルクソードにも『存在』を認められた。
ようやくカードから開放され、何時もの感覚に戻る。
浮遊感が消え、地に足がつく感覚。自由に辺りを見回せる有難さ。
「もう少し"中身"を鍛えな、ロクサス」
笑みを浮かべたまま言うルクソードの脇腹を蹴ろうとした――が、音も無く後方へ飛び、かわされる。
また『目で読まれて』気づかれたみたいだ。
俺もまだまだ未熟って事か…。
白を基調としたノーバディ達の居城。
無機質なその世界は、生きているモノを排他した、冬の世界のようだ。
凍り付いて、停止している。
決して明ける事の無い、闇が支配するこの地。
何かが、違う…――そんな違和感が、消えない。
俺はノーバディ、心無き者。
心が無ければ"違和感"なんか"感じた"りしないだろう?
脳裏に過ぎる、この"感覚"は…何だ?
真紅の空が、視界を支配する。
柔らかな風が、それに乗って響く鐘の音が、聞こえる。
それに呼ばれるかのように、闇を開いた。
あの街へ。
時刻を告げる鐘の音が響いている。
人工的な光ではなく、夕焼けの色が支配するこの街。
時計台のごつごつとした石の感触を布越しに感じながら腰を掛け、街で買ったアイスを街並みを眺めながら食べていた。
一度興味本位で買ってみて、不思議なその味を気に入って、それ以来この街に来たら一本は買うようになった。
シーソルトアイス。
海って…しょっぱいのかな。アイスを食べるようになってからそう思った。
「やっぱり…ここだったのか」
現れる『ノーバディ』の気配。
近づいてくる足音――最近、よく絡んでくるな、と思う。
「アイス美味いんだ。喰う?」
後ろを振り返り、『誰』だか確認する必要は無い。
ここに来るやつなんて、俺以外に一人しか思い当たらないから。
「…アイス?ロクサス、こんなの食べていたのか」
「いらないんだったらいいよ、アクセル。俺一人で全部食べる」
「別に喰わないとはいってないだろ?」
そう言って、声の主――アクセルは俺から食べかけのアイスを受け取ると、一口それを口に含んだ。
「うぁ、なんだこれ…冷たっ…しょっぱい…甘い!?知らなかった、こんなの街に売ってたわけ?うめぇ!!」
そう言い、残っていたアイス全部食べる勢いでがっつき始めたアクセル。
ちょっと待て、そんなに食べて良いなんて言ってないだろ!
「アクセル待て、全部喰うな!そんなに食べたければ自分で買え!!」
「ぅ…頭がキーンとしてきた……」
「――バカ」
4分の3は残っていたアイスが2分の1まで減っていた。
それを俺の方に差し出しながら、こめかみを押さえる。
「一気に食べたらこめかみが痛くなるよ、アクセル」
「そういう事は、もっとはやく…」
アイスの恨みだ、バカ。
『食べ物の恨みは恐ろしい』っていうコトワザ、知ってる?
「っー…でもうまいな、それ。今度は俺も誘えよな、ロクサス。奢ってやるから」
こめかみを押さえつつ、"苦笑い"を浮かべるアクセル。
"嬉しい"申し出に、俺は頷いた。…顔が、緩んでいたような気がする。
「ロクサス、ここ…よく来るんだな」
緩んだ表情が一変、"真剣"な表情をしながら街を見るアクセル。
アイスを口に運ぶ手を止め、俺も街並みに視線を滑らせる。
無機質なあの『城』にいるより、ここにいた方が――落ち着くんだ。
「アクセルがあの時、言ったように…俺この場所が"好き"なんだと思う」
この"動き"を"感情"として表現するのなら。
俺には『オリジナル』の記憶を持ち合わせていないから、アクセルが表現したい『好き』と、俺が感じている『好き』が一致しているか判らないけれど。
心が無いから、こんな『行為』…唯の『人間ごっこ』。
空っぽな自分に何かを求めたって、『虚無』でしかないって分かっているのに。
無機質な城が"嫌"だとか、この場所が"好き"だとか。
ノーバディである俺が、こんな風に思うのは『ありえない』事…なのに。
でも、『ここが俺の場所だ』と、そう感じる『俺』がいる。
「いいんじゃね、そーいうのも」
「…え?」
アクセルの一言。
それに驚いた俺は、彼の方を見た。
「俺さ…お前が羨ましいよ。記憶無くても、"そう"だってわかるんだろ?」
翡翠のような色をした目が、俺を見据える。
『内面』まで、見透かされるような錯覚を覚えた。
「アイス…溶けちまったな」
「あっ!」
アクセルの指差す先には、棒だけになったアイスの残骸が。
最後の水色の雫が、下へ落ちていく瞬間だった。
「アイス、買ってきてやるよ。折角の休暇だ、のんびりしようぜ」
何事も無かったかのように立ち上がると、闇を開いて身を滑らせるアクセル。
一人その場に残された俺は、しばらく棒だけになった『元』アイスを眺め、夕日に燃える街並みに視線を向ける。
俺の"いつもの場所"は、今日も変わらない。
03.いつもの場所
またまた無理やり繋げた形となりました…ぅぅ、お題にそうとか難しいなぁ。
機関のメンバーの中ではアクセルとロクサスがダントツのお気に入りで。
実はルクソードも気に入っていたりします。ギャンブラーvv