まいったねぇ、実に参った。
ロクサスを何とかしてくれ、と言われても正直俺にも止められないな。
一応『ゼムナスの右腕という立場』上アイツもいい子にしてくれてはいるが、マジになったアイツはどうしようもない。
下手な被害を出す前に、正直に条件を飲んだほうが賢い選択だ。
「シグバール」
噂をしていたら、なんとやら…だな。
「よぅ、ロクサス。いい子にしていたか?」
「…あんたじゃなきゃ、その台詞を吐いた瞬間に消している」
にこやかな笑顔でそう言うロクサス。
一層黒さに磨きがかかったようで、何よりだ。
「シグバールお願いがあるんだけど」
「いい子でいられる約束が守れるんだったらな」
「うん」と返事をし、俺の方を見る。
見た目は、何処にでもいる少年。だが、内なる黒さは機関随一だろう。
「アクセル、貸して欲しいんだ。買い物行きたいんだけど…手が足りなくて。サムライ共じゃあ使い物にならないし」
物質を『斬る』対象としか見ない奴らなんて買い物に連れて行けないとボヤくロクサス。
ダスクはすぐに迷子になって荷物を落とすし、クリーパーなんてもっての外だと。語りだした。
「了解した。アクセルに任務終わり次第、『あの場所』へ向かうよう言っておこう――買い物終わったら、次の任務をこなすんだぞ」
「もちろんさ。ありがとうシグバール」
上機嫌で自分の部屋へ戻っていくロクサスを見送る。
ロクサスを動かす、一番手っ取り早い方法は彼の願いを叶える事。
それを『知る』昔の事を思い出した。
『鍵を持つ者が狭間に落ちた。迎えに行くように』
ゼムナスの指令を受け、ポイントへ向かう。
黄昏の街、彼はそこに『はめ込まれる』ように出現した。
額縁に飾られた絵、それにはめ込まれた宝石を取るように彼を『拾う』。
「よく来た、狭間にうまれし者」
俺の声を聞いたのか、彼が目を開ける。
突き抜ける、『繋がる蒼』を象徴する目。彼が『ソラ』だという確信を持つ。
彼が目を開いた。
「ソラの半分を持つ者。『君の名前は"ロクサス"だ』」
ゼムナスより受け取った"言葉"を彼に与える。
ゼムナスの言葉は、ノーバディにとって"神託"そのもの。
「…俺はソラの半分じゃない」
「――?」
穏やかに発せられた否の声。
『優しそうな笑顔』に秘められた『どす黒い殺気』。
「あいつが俺の半分なんだ、俺があんなアヒルとイヌを連れてあるくわけがないだろ?」
あんな脳みそが足りない奴ら連れて、女の尻を追い掛け回す奴と一緒にしないでくれ――彼はあくまでも笑顔で告げる。
幾ら機関の連中が色物ぞろいとは言え、彼の色は他よりもはるかに強い。
さすがにやばくないか、ゼムナス?
「"ロクサス"って俺のこと?」
空間から抜け出した彼は、地に足をつけるなり背伸びをしつつ俺に問う。
「そうだ。我がリーダーが君を『機関』に迎え入れたいと言っていた」
「俺さ、メンドクサイ事嫌いなんだよね」
キーブレードの勇者だか何だか知らないけど、てめぇの面倒を自分で見れない連中の為に、寄り道ばかりしているあいつを見ていてイライラしていたんだ――いかにも『笑い話』をしているかのように、笑顔で告げる。
ノーバディは『心』が無いはずなのだが、彼には心があるように見えてならない。
さしずめその黒さのおかげか。
「で、機関に入ったら何か良いことある?」
「キングダムハーツが手に入る」
キングダムハーツ。
俺達ノーバディに『心』を芽生えさせてくれるモノ。
それの入手が俺達の悲願なんだ、と告げる。
「何それ。興味ないね」
やはり、予想通りだな。コイツはなかなか一筋縄にはいかないようだ。
ならば別の方法でいくか。
「なぁ、ロクサス。お前は生まれたばかりで住む場所も金もない――俺達に協力してくれたら、お前の望むものを与えよう。どうだ?」
「お金は巻き上げればいいし、場所は奪えばいいだろ?」
…コレの存在が、『世界の勇者』。
危険すぎる『勇者』に救いを求めている世界って、危なくないか?
「でもまぁ…実際にそれやっちゃうと後々メンドクサイ事になるから、機関はいるかな」
いいのか、それで。
「あのバカ共と付き合うのもあきあきしていたし。いいよ、入る。その代わり約束守れよ」
…鍵、予定通り入手したが…本当にコイツでいいのか、ゼムナス。
己を『抜け殻』と象徴する大半のノーバディにとって、コイツの存在はカルチャーショックになるはずだ。
『馬鹿な中身を捨ててきた』と言い張るんだからな(話の内容的に。
『あいつ』が俺の存在なのではなく、『俺』があいつを捨ててきたんだ。
そう言い放ち、キーブレードを振り回すロクサス。
アクセル曰く『我らが姫君』は今日も気ままに暮らしている…。
07.俺がソラだ
…いいんですか、これで?
お題に沿うというより、腹黒さを露出しただけの作品になっています。
光のお題と矛盾している点がありますが、その辺は『別の話』って事で…気にしないであげてください(切実